不動産を含めた遺産を相続する場合、分割協議や相続登記、相続税の納税など、やるべきことは多くあります。さらに相続した不動産の売却を検討するのであれば、事前に売却時の節税についての知識を付けておいた方がいいでしょう。
相続した不動産を売却する際には、譲渡所得税を節税するための控除特例が2つあります。
・取得費加算の特例
・相続空き家の3,000万円特別控除
本記事では、この2つの控除特例について詳しく解説していきます。
目次
相続した不動産の売却で課税される税金
相続した不動産を売却したときには、次の3つの税金が課税されます。
- 印紙税
- 登録免許税
- 譲渡所得税
この3つの税金は、相続不動産に限らず、どんな不動産の売却でも課税されます。
(参考)不動産売却で課税される3つの税金と節税するための控除特例
ただし、「3.譲渡所得税」については、必ず課税されるわけではありません。譲渡所得税の課税対象となるのは、相続不動産の売却益(≒譲渡所得)がでた場合のみです。
譲渡所得の算出方法については、以下の記事をご参照ください。
(参考)不動産売却で確定申告は不要?する・しないの見分け方と必要書類を完全ガイド
譲渡所得には、不動産の所有期間に応じた税率の住民税と所得税が課税されます。「譲渡所得税」とは、この住民税と所得税を総称したものです。
●短期譲渡所得(所有期間が5年以下の場合)
39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)
●長期譲渡所得(所有期間が5年超の場合)
20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
●長期譲渡所得(所有期間が10年超のマイホームの軽減税率の特例)
譲渡所得6000万円以下の部分:
14.21%(所得税10%+復興特別所得税0.21%+住民税4%)
譲渡所得6000万円超の部分:
20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
※「所有期間」は売却する年の1月1日時点
相続した不動産の所有期間は、「相続を受けてから売却するまでの期間」ではなく、亡くなった方の所有期間を引き継ぎます。たとえば、亡くなった方が5年間所有していた不動産を相続され、自身が1年間所有したのちに売却した場合の所有期間は、「5年+1年」で6年です。
上記表の通り、譲渡所得税(所得税+住民税)は、譲渡所得の最大40%近くと高額にもなりえます。ただし、相続した不動産の売却時には、譲渡所得税を節税できる控除特例が2つあります。
取得費加算の特例
まず1つは、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」。通称「取得費加算の特例」です。
取得費加算の特例は、相続時に納税した相続税のうち一定金額を譲渡所得の取得費に加算できるというものです。よくわらかないと思いますので、ここから詳しく解説していきます。
相続税相当額を取得費に加算するとどうなる?
譲渡所得は、次の計算式で算出されます。
譲渡所得 = 売却価格 -(取得費+譲渡費用)
簡単に言えば、「不動産を売った金額」から、「不動産を取得した金額」「取得のためにかかった費用」「売却のためにかかった費用」を引いたものが譲渡所得です。
取得費加算の特例は、“「取得のためにかかった費用」に相続税の一部を加算していいよ”というもの。計算式上、取得費が高くなれば、譲渡所得が減ります。譲渡所得が減れば、譲渡所得税が減ります。よって、節税につながるということです。
取得費加算の特例の適用期限に注意
該当不動産の相続税を納税した場合には必ず適用させたい取得費加算の特例ですが、適用には期限があるのでご注意ください。
適用期限は、相続から3年10カ月後。(相続税申告を延長していない場合)この期限までに相続不動産を売却しなければなりません。
相続空き家の3,000万円特別控除
続いての特例は、「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」。通称「相続空き家の3,000万円特別控除」です。
相続空き家の3,000万円特別控除が適用になれば、住民税や所得税の課税額が決まる起算となる「譲渡所得」を最大3,000万円控除できます。不動産売却で3,000万円以上の譲渡所得がでることは稀なケースであるため、多くの場合、課税額をゼロとできる非常に大きな控除制度です。
ただし、相続空き家の3,000万円特別控除についても、適用期限があるとともに、築年数や物件種別等の要件が厳しいのでご注意ください。
対象不動産
まずは、相続空き家の3,000万円特別控除の対象となる不動産の条件についてみてきましょう。
- 昭和56年5月31日以前に建築されたこと
- 戸建て住宅
- 相続直前まで亡くなった方が居住していたこと(亡くなった方が要介護・要支援認定を受けていて、相続直前に老人ホーム等に入所していた場合も適用対象となります。)
上記3つ全てを満たすことが前提条件です。
なおかつ、対象となる不動産が一定の耐震基準を満たしている、もしくは解体して更地にしなければ、適用要件を満たすことはできません。
適用期限
相続空き家の3,000万円特別控除も、取得費加算の特例と同様に適用期限があるのでご注意ください。
期限は、相続の開始があった日から3年を経過する年の12月31日まで。たとえば、2020年4月1日に相続された物件は、2023年の12月31日が適用期限となります。
「取得費加算の特例」と「相続空き家の3,000万円特別控除」は併用不可
相続した不動産を売却するときの2つの税金控除特例を解説してきましたが、両者の特例は、同一不動産に対する併用ができません。
いずれの控除特例の適用要件も満たしている場合には、節税効果を比較する必要があります。
まとめ
「取得費加算の特例」「相続空き家の3,000万円特別控除」いずれも相続から3年強で売却しなければ適用されないことを考えると、相続した不動産の売却をお考えの場合は、売却に向けて早めに動き出した方がいいでしょう。相続した家は、多くの場合で築年数が古かったり立地が悪かったりするものでもあります。一般的に、不動産が売れるまでにかかる期間は4~6カ月ほどと言われていますが、条件の悪い物件は1年、2年と経過しても売れないことも考えられます。とくに「相続空き家の3,000万円特別控除」は、適用までに耐震工事や解体工事が必要になることも。弊社アーキ不動産では、不動産売却とともに、リフォームや解体、空き家管理等のご相談も承っております。また相続に伴う分割協議や相続登記についても、弁護士や司法書士と連携してサポートさせていただくことも可能です。相続した不動産をどうすればいいのかお悩みの方は、どうぞお気軽にお問合せください。