空き家問題が数年前からクローズアップされています。平成30年の時点では全国の空き家率は13.6%でした。
つまり7軒に1軒は空き家ということです。
空き家率は年々上昇しています。
日本でこのまま空き家が増え続けるとどうなるのでしょうか?
横浜市立大学 都市社会文化研究科の齊藤広子教授によると、空き家率が30%を超えると都市の破たんにつながります。
2007年に破綻した夕張市は空き家率が33%あり、2013年アメリカのミシガン州デトロイト市も29.3%となっていました。
どちらも30%前後の空き家率で財政破綻が発生しています。
そして、野村総研によると、2033年には日本の空き家率は30.2%になると推計されています。(参考:野村総合研究所)
日本は大丈夫なのでしょうか?
空き家問題は地方の問題と考える人もいるかもしれません。確かに地方では空き家問題はより深刻ですが、全国の主要都市でも空き家は大きな問題になっています。
このように、ある程度の人口を抱える政令指定都市でも空き家は大きな問題になっています。
この記事では空き家問題の原因と、空き家問題を放置するリスクについてわかりやすく解説します。
空き家問題は他人事ではありません。
親の家を相続することで、あなた自身が空き家問題の当事者になる可能性は大きいのです。
空き家の所有者となることで、どんなリスクを背負わなければならないのかは理解しておいたほうがいいでしょう。
※空き家といっても、実は4種類あります。空き家の定義については、こちらの記事にまとめました。
空き家問題の本質的な原因
空き家問題の本質的な原因は大きく分けて次の5つです。
(1)政府の無策
(2)家の価値に対する考え方
(3)日本人の新築信仰
(4)相続対策としてのアパート建設
(5)高齢化
最も大きな原因は、空き家問題を先送りにする政府の無策です。
それぞれ詳しく見ていきましょう。
(1)政府の無策
政府の無策が空き家問題を深刻化させています。特に次の3点は政府の無策によって引き起こされています。
①人口動態を無視した新築住宅建設支援
②東京一極集中による地方の空洞化
③登記制度の不備
①人口動態を無視した新築住宅建設支援
日本では第二次大戦後に住宅が不足していました。約420万個不足していたと推計されています。
しかし、戦後わずか20年後には住宅は余りはじめているのです。
1968年時点では、世帯数が2,532万世帯だったのに対して、住宅のストックは2,559万戸でした。
27万戸の住宅が余っていたということです。
そして1968年時点ですでに、将来の出生率が下がることが推測されていました。
国立社会保障・人口問題研究所が1968年に発表した人口問題研究No.106「日本の人口問題」に詳説されています。
この時点で人口減少がわかっていたのに、新築住宅を作り続けたのです。
なぜか?
景気刺激に最も効果的だからです。
政府は人気取りのために、家を作り続けることを奨励します。
住宅ローン控除は支援策の最たるものでしょう。
平成4年から住宅金融公庫(現在の住宅金融支援機構)が販売していた「ゆとりローン」は、資金のない人にも家を買わせるための手段でした。
契約後5~10年は返済額が抑えられますが、6年目、11年目には1.7倍ほどに返済額が跳ね上がり、住宅ローン破綻者が激増したと言われています。
もちろんゆとり返済の仕組みだけでなく、リーマンショックも大きく影響したでしょう。
しかし、政府が人口動態を無視して、景気刺激のために新築住宅支援を行っていることを否定できる人はいないでしょう。
では、新築住宅の供給を減らせるのかというと難しいと思います。
大手ハウスメーカーは新築住宅を売らなければ経営が立ちいかなくなってしまいますからね。
②東京一極集中による地方の空洞化
次は、東京一極集中が地方の空き家率を高めているという問題です。
1960年代から東京への流入は続いています。
東京一極集中を懸念して、「地域間の均衡ある発展」が議論されていますが、誰もが形だけと受け止めているのではないでしょうか。
その結果、地方は人口減少、財政不安、経済力の低下などの問題が顕在化しています。
実際に、空き家の高い都道府県は次の通り、地方圏で目立っています。
自治体 | 空き家率 |
山梨県 | 21.3% |
和歌山県 | 20.3% |
長野県 | 19.5% |
徳島県 | 19.4% |
高知県 | 18.9% |
鹿児島県 | 18.9% |
愛媛県 | 18.1% |
香川県 | 18.0% |
山口県 | 17.6% |
栃木県 | 17.4% |
③登記制度の不備
「空き家問題と登記制度の不備と何の関係が?」と思われたかもしれませんが、これが空き家の現所有者の特定を難しくしている根本原因と思われます。
現状の登記制度では、所有権の移転登記は任意なのです。
なぜでしょうか?
それを理解するには、不動産登記の仕組みを知っておく必要があります。
不動産登記の豆知識
不動産登記は土地、建物別に行なわれます。
さらに、一筆の土地、一個の建物ごとに表題部と権利部に区分して登記されます。
このうち建物の表題部は税金と連動するため、必ず登記しなければなりません。
しかし、権利部については、登記の義務はありません。
さて、ここで所有権移転登記をするには、費用がかかります。
土地の場合であれば、親から子へ所有権を移転すると20万円程度、祖父母から孫へ所有権移転する場合は50万円程度かかります。
所有権の登記は何のためにするかというと、もちろん所有者を明確にするためですが、所有権の登記が必要になるのは、他者と争いが起きたときです。
相続する価値のない土地で、他者との争いが起こりようがない場合に、費用をかけて所有権移転登記をするでしょうか?
多くの人はしないでしょう。
所有権移転登記をしなくて自治体は困らないのか?
所有権移転登記をしなくて、誰が所有者かわからなくなって自治体は困らないのでしょうか?
実際の所有者がわからなくなっても、実はその時点では自治体も国も困りません。
固定資産税は登記上にある人物に課税されるからです。実際の所有者でなくても、自治体は誰かが払ってくれればそれでOKなわけです。
さらに、固定資産税は同一人が所有する固定資産の課税標準額の合計がそれぞれ土地30万円、家屋20万円未満の場合は免税点未満として課税されません。
田舎の古い家で敷地面積30~40坪程度であれば、土地・家屋とも免税点未満ということは往々にしてあります。
そうなれば、行政としては税金を徴収する必要はありません。だから登記が行われず所有者がわからなくなっても行政は困らないのです。
日本は登記情報と所有者情報、納税情報がバラバラになっています。
よく言われることですが、日本の縦割り、縄張り重視の民族らしい体制です。
古い家を相続した人の立場としても、固定資産税がかからないのであれば放置してしまいますよね。
空き家が増えて困ってきた
しかし、このような不備だらけの制度がまかり通ってきたことが、空き家問題の解決を難しくしているのです。
空き家対策特別措置法によって、空き家の所有者確定のために、固定資産税の納税情報が利用できることになり、所有者を探しやすくなったと言われています。
しかし、この法律は問題の根本を解決しているわけではなく、対処療法にしかすぎません。
横浜国立大学大学院 教授の岩﨑政明氏が述べられている通り、そもそも所有者を特定できたときしか、この法律に定められている罰則規定は適用できません。
空家対策特措法に定められた様々な措置を実施できるのは、実は、対象不動産の所有者が特定できる場合なのです。不動産の利用状況に問題のある所有者に対しては、改善命令や代執行を行うことはできるのですが、所有者が本当に不明な場合や全く連絡がつかないようなときに、国、公共団体が独自の判断で、私有財産である建物を壊したり、私有財産である立竹木を勝手に伐採することができるかというと、それは疑問です。
(引用:所有者不明土地に関する法律・課税問題と解決の方策)
そして、総務省の調査によると、「空家対策特措法」の施行後も現場では、空き家所有者の特定には多大な負担が発生しています。
相続人が多数存在する例や、相続人の半数が他自治体に居住している実態もあり、今なお、自治体が行う所有者等の特定に多大な負担が発生(自治体による調査において、50 人以上の相続人に連絡を要したものや、海外居住者等への
(出典:空き家の所有者等の特定)
連絡に手間を要したものがある)
このような制度の不備を放置していることも、国の無策と言えるでしょう。
(2)家の価値に対する考え方
次に家の価値に対する考え方にも空き家が増える理由が隠されているような気がします。
日本では、家は買った瞬間から価値が下がります。
新築マンションでも買った時点で、2~3割価格が下がることが多いのではないでしょうか。
もちろん都心の一等地などは逆に上がることもありますが、全体的には下がることのほうが圧倒的に多いでしょう。
そして家の価値に対する考え方は法定耐用年数に顕著に表れています。
住宅の法定耐用年数
税務用であって、本当の価値ではない
上記の法定耐用年数から住宅の価値を論じる人がいますがナンセンスでしょう。
法定耐用年数は税務用に作られたものであって、家の価値を計算するものではありません。
本来の住宅の価値とは関わらないのに、20年経てば価値がゼロなどと言う人がいるのです。
日本人は住宅を使い捨て
日本と欧米では住宅に対する考え方が全く異なります。
日本は新築優先で、中古住宅があまり流通していません。
既存住宅(中古住宅)がどの程度流通しているのかを比較すると次のようになります。
中古住宅流通率 | |
日本 | 13.5% |
アメリカ | 90.3% |
イギリス | 85.8% |
フランス | 64.0% |
欧米では、家は古くなったからといって価値は下がりません。
立地がよく、きちんと手入れされていれば、価格は上がります。
国土交通省の調査による次の資料をご覧ください。
アメリカでは住宅資産額が住宅投資累計額を上回っています。
例えば、住宅に3,000万円を投資したとして、住宅資産額が3,000万円以上になるということです。
つまり極論すれば、アメリカでは買ったときより家は高く売れるものなのです。
一方、日本はどうでしょうか?
同じく国土交通省の資料をご覧ください。
投資額累計と資産額には500兆円の開きがあります。
このグラフから端的に状況を説明すると
8621万円で買った家の資産価値は3438万円しかないということです。
日本人は家は買ったら価値が下がるもの、極端に言えば、「使い捨て」と考えていることが伺えます。
(3)日本人の新築信仰
(2)の家の価値に対する考え方にも通じますが、日本人には新築信仰のようなものがあるのではないでしょうか?
日本は従来、木造住宅が多かったので、高温多湿・地震の多い我が国では、新築のほうが好まれたのかもしれません。
そしてもう一つは敗戦の焼け野原から立ち上がった経緯も影響しているのかもしれません。
何もないところから新しい国を築いたわけですから、新しいものが良いという価値観が根付くのも当然といえるのかもしれません。
しかし、新しいものが良い、古い家には価値がないという考え方が、日本人を貧乏にしているとともに、住宅の供給過多=空き家の発生につながっているのではないでしょうか。
(4)相続対策としてのアパート建設
平成19年に国土交通書が行った調査によると、賃貸人が賃貸住宅の経営に携わった動機として、「相続対策」を上げてる賃貸人が61.1%います。
事業としてアパート経営をするわけではなく、節税対策としてアパートを建てているのです。
そのようなアパートは立地など無関係、地域のニーズも無視でしょう。
そんな動機で建てられたアパートが10年後、20年後にどうなっているかは想像に難くありません。
このような相続対策(節税対策)としてのアパート建設はハウスメーカー主導で行われました。
20年間一括借り上げ(サブリース)、家賃保証などという甘言になびいて、子供は税金を払わなくてよい、自分も何もせずに儲かるかもという錯覚に陥ったわけです。
賃貸住宅の経営は楽して儲かるという甘いものではありませんが、そもそも経営するという意識なくアパートを作っているわけですから、現実の厳しさに直面している大家さんも多いのではないでしょうか。
(5)高齢化
空き家が増える理由として一番イメージしやすいのは高齢化でしょう。
これには2つのパターンがあります。
相続の高齢化
平均寿命が延びて、相続するのが高齢になってからというケースが増えています。
父母のどちらかが85歳で亡くなったとして、その時点で子が親の家を相続したとしましょう。
その時点では子もおそらく50代です。
つまり、ほとんどの場合、自分で家を建てています。残された住宅の条件がよほどよかったりしなければ、それまで住んでいた家を捨てて実家に戻るということはないでしょう。
介護施設への入所
高齢となり、実家での生活がままならなくなり、実家はそのままにして介護施設へ入所する場合です。
この場合も空き家が増えます。
介護施設から帰ってきたときのことを考えて実家をそのまま残したいというケースが多く、結果的に放置され空き家となります。
空き家を放置するリスク
これまで述べてきたように、日本には空き家がどんどん増えています。
空き家を放置するとどんなリスクがあるのかは確認しておくべきでしょう。
ただ、空き家の放置は立地によって問題が異なります。
都市部での空き家のリスク
家と家の間が近い都市部では、空き家は存在そのものが迷惑になります。
●ゴミが放置され悪臭を放つ
●害虫・害獣が発生するリスク
●放火されるリスク
●不審者が住みつき犯罪発生の恐れ
●植栽の繁殖による死角の発生
●景観を損なう
上記のようなリスクが考えられます。
都市部の空き家であれば、うまく活用することで機会損失を防ぐことができるかもしれず、外部不経済も大きな問題です。
地方都市の空き家問題
一方、地方都市の中でも隣家との距離があり、隣家がどんな状態であろうと気にならない農山村では、空き家があること自体より、人口流出のほうが問題になります。
人口が流出して自治体の財政が悪化すれば、住民は十分な公共サービスを受けることができなくなるというリスクがあります。
空き家問題の解決方法
このように一口に空き家問題といっても、都市部と地方の過疎地では問題が異なり、したがって解決方法も異なってきます。
空き家問題を解決するために、「空き家を活用しよう!」と言ったところで、解決したい問題が異なれば、方法も異なってくるでしょう。
都市部での空き家であれば、商業利用による活用が考えられますが、この場合は一企業の努力だけでも、それなりの成果を生み出すことができます。
しかし、過疎地の空き家問題は個人や一企業の力だけで成果を上げることは難しいでしょう。
地域住民の協力、行政のサポートが必要です。
空き家問題は個別性の高い問題です。
立地、広さ、築年数、所有者の想い、相続人の人数など、それぞれの空き家が特有の性質を持っています。
十把一絡げに空き家問題の解決法を論じることはできません。
この記事で紹介したような空き家問題の本質的な原因を考えると、空き家問題を解決するのは絶望的な気分になってしまいます。
しかし、そんな中でも空き家問題の解決に取り組み、成果を上げている事例は多数あります。
そのような事例を参考にすることで、あなたが空き家問題に直面したときの助けになるかもしれません。
まとめ
以上、日本の空き家問題の本質的な原因について5つにわけて解説しました。
もはや構造的な問題となっていることがお分かりいただけたと思います。
日本の空き家率は野村総研が予想するように、2033年に30%を超えるのでしょうか?
30%超えで財政破綻の危険があるとしたら日本はどうなるのでしょうか?
有効な空き家対策を講じることで、次世代に負担をかけない日本にしていきたいですね。
空き家問題はいつ自分に降りかかってくるかわかりません。当事者となったときに慌てないように空き家問題についての知識を蓄えておきましょう。
この記事を書いた人
- 不動産のプロとして33年のキャリアを持ち、お客様に寄り添った最適なサービスをご提供することに情熱を注いでいます。アットホームな社風の中、有能なスタッフと共に日々研鑽に励み、お客様の人生に幸せをもたらすことが私の喜びです。
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