滅可能性都市」という言葉をご存じでしょうか?

消滅可能性都市とは、文字通り”消滅する可能性のある都市”のことです。

日本創成会議という団体が、2014年に発表しました。

住宅探しをしている方の中には、「自分が住もうとする地域は過疎化していかないだろうか? 財政破綻にならないだろうか?」などといった疑問を持たれている方もいらっしゃるかと思います。

ぜひ、この「消滅可能性都市」については簡単な内容だけでも知っておいてください。

消滅可能性都市とは?

(出典:https://www.mlit.go.jp/pri/kouenkai/syousai/pdf/b-141105_2.pdf

消滅可能性都市とは、増田寛也元総務相ら民間有識者でつくる「日本創成会議」が2014年の5月に発表した資料です。

2010年から2040年にかけて20 ~39歳の若年女性人口が5割以下に減少すると予想される自治体のことをいいます。

消滅可能性都市に該当する自治体は、全国1799自治体のうち896自治体にも上り、全体の約半数を占めています。

青森県、秋田県、岩手県、山形県、島根県の5県については、8割以上の自治体が該当し、特に秋田県においては、大潟村を除く全自治体が該当しています。

なお、この消滅可能性都市に関する資料は、座長である増田氏の名前から、「増田レポート」と呼ばれることもあります。

都市が消滅の危機に瀕してしまう背景

女性の出産時の年齢は、9割以上が20~39歳と言われています。

つまり20~39歳の女性が少ないと、「人口増加はほとんどない、人口減少だけが進んでいく」という傾向が強くなることになります。

そして、地域に20~39歳の女性が減っていってしまう背景にあるのは、「極点社会」です。

極点社会とは、地方から都心へと人々の流出が進み、都心に人々が集中している社会のことをいいます。

かつては大阪や名古屋、福岡、仙台などに移住する人も多かったですが、近年では、東京(東京、神奈川、千葉、埼玉からなる東京圏)への一点集中が顕著になってきています。

消滅可能性都市に対する世間の反応

この消滅可能性都市は、2014年5月の発表当時、マスコミでもクローズアップされ、世間で大きな話題となりました。

2014年の「ユーキャン新語・流行語大賞」の候補にも選ばれています。

民間組織による発表ですので、法的な拘束力などはありません。

しかし、多くの自治体が消滅可能性都市に関する資料を参考にしています。

現状の把握や根本的な改善を促すきっかけとなっています。

消滅可能性都市を発表したのは日本創成会議

消滅可能性都市を発表したのは、日本創成会議(の人口減少問題検討分科会)という組織です。

日本創成会議とは、東日本大震災からの復興を新しい国づくりの契機にしたいとして、2011年5月に発足した民間の政策発信組織です。

岩手県知事、総務大臣を歴任した増田寛也氏の他、政治家や官僚、大企業役員、大学教授などから構成されています。

日本創成会議の活動内容

日本創成会議の活動内容は、人口問題やエネルギー問題、地方活性化、グローバル都市(世界的な観点で重要性や影響力の高い都市のこと)などについて政策提言を行っていくことです。

日本創成会議は民間の組織ですが、元岩手県知事、元総務相の増田寛也氏が座長を務めていることから影響力が大きく、国や各自治体の政策に影響を与えています。

政府の審議会などにも、多くの日本創成会議メンバーが参加しています。

消滅可能性都市ワースト20

ここで、消滅可能性都市のワースト20をご紹介します。

1位群馬県南牧村89.9%
2位奈良県川上村89.0%
3位青森県今別町88.9%
4位北海道奥尻町86.7%
5位北海道木古内町86.5%
6位群馬県神流町85.5%
7位北海道夕張市84.6%
8位北海道歌志内市84.5%
9位北海道松前町84.4%
9位北海道福島町84.4%
9位奈良県吉野町84.4%
12位奈良県下仁田町83.3%
12位徳島県那賀町83.7%
14位高知市室戸市83.4%
15位新潟県粟島浦村83.2%
16位青森県外ケ浜町83.1%
17位京都府南山城村83.0%
17位和歌山県高野町83.0%
19位奈良県東吉野村82.7%
20位埼玉県東秩父村82.6%
20位徳島県神山町82.6%

1位の群馬県南牧村では、89.9%もの減少率となっています。

あくまで単純計算ですが、出生率が同じであれば出生数が1割程度にまで落ち込んでしまう、ということになります。

なお、ワースト20の中に、北海道の自治体が多くありますが、そもそも北海道は自治体の数が多い(北海道の自治体数は179で全国トップ)ということもあります。

なぜ豊島区が消滅可能性都市に?

東京23区で唯一消滅可能性都市に挙げられた豊島区

消滅可能性都市の発表当時、東京23区の一つで、「池袋駅」「サンシャイン60」「巣鴨地蔵通り商店街」などで有名な「豊島区」が挙げられたことが大きな話題となりました。

豊島区は、人口29万人、面積13km?の、日本一人口密度が高い自治体です。

また、豊島区の中心地である「池袋駅」は、乗降客数が約264万人で、乗降者数全国2位の巨大ターミナルです。

※ちなみに、1位が新宿、3位が東京、4位が横浜、5位が品川です。

消滅可能性都市として挙げられた自治体の多くは、以前から過疎化などの問題を抱えていた自治体である中、なぜ、この豊島区が消滅可能性都市として挙げられたのでしょうか。

なぜ豊島区が消滅可能性都市に?

豊島区は、人口自体は多いものの、定住率は低いです。

20歳前後の若者が、大学入学や就職などを機に、外部から大量に流入してくるが、子育て世代になると、「ファミリー向けの住宅が少ない(あっても家賃が高い)」「子どもと遊べるような公園がない」「池袋駅周辺の治安が悪い」などといったことから、他の自治体に流出してしまうーー

以前から、このような傾向があるようです。

統計的にも、”豊島区は15歳未満の子どもが少ない”というデータが出ています。

消滅可能性都市後の豊島区の取り組み

豊島区は、消滅可能性都市の発表以降、次のような取り組みを行ってきました。

・子育て世代の女性の意見を行政に取り入れるための会議(「としまF1会議」と呼ぶ)の開催
・妊娠・出産・育児に関する相談員(「子育てナビゲーター」と呼ぶ)の設置
・地域公園の活性化(ソファや椅子を設置する、近所のお店に出店してもらうなど)
・単身世帯を減らすため(ファミリー世帯を増やすため)のワンルームマンション規制

これらの取り組みが功を奏したのか、現在では、子育て世代の流入が増加傾向にあり、「子育てしやすい街」などと言われるようにもなってきています。

消滅可能性都市問題を解決するには?

多くの地方自治体において、”消滅可能性都市からの脱却”が大きなテーマとなる中、解決策として注目されているのが、「スマートシティ化」「サテライトオフィスの誘致・設置」「出産・子育てしやすい街づくり」です。

解決策1:スマートシティ化

スマートシティとは、人々の生活の質の向上のために、AIやIoTといった先端技術を活用して、インフラやサービス、エネルギーなどを効率的に運営・管理する都市のことをいいます。

スマートシティの代表的な事例:
・車の自動運転
・ロボットによる自動配送
・ロボットによる自動清掃
・センサによる子どもや高齢者の見守り
・災害時のエネルギー確保

スマートシティは、地方の人口流出に歯止めをかける手段として注目されています。

スマートシティ化により便利で快適な生活をできるようになれば、当然、そこに留まろうとする方が増えてきます。「都心と同じだけの便利さがあるのであれば、自然の豊かなところ、サポートしてくれる親や親族がいるところに住むのもよい」などという声も多くあります。

※消滅可能性都市とは別に、日本全国において少子高齢化が進んでおり、その点においてもこのスマートシティが注目されています。

解決策2:サテライトオフィスの誘致・設置

サテライトオフィスとは、企業の本拠地(本社や各事業所など)から離れた場所に設置されたオフィスのことです。

多く企業が都心に本拠地を構えていますが、地方にサテライトオフィスを設置すれば、従業員の生活圏が都心近郊である必要がなくなります。

満員電車ストレスや家賃負担などが軽減されることになります。そして何より、その地域にとっては、人口の流入を増やす効果を期待することができます。

今、消滅可能性都市からの脱却を目指す地方の自治体の中には、このサテライトオフィスの誘致・設置を推し進めているところも多くあります。

既にある公共施設を活用したり、空き家を改修してオフィスにしたりなど、様々な取り組みがなされています。

解決策3:出産・子育てしやすい街づくり

出産しやすい街、子育てしやすい街になれば、人口流出の抑止につながります。前述した豊島区の取り組みが正にこれですね。

女性に優しい街づくり・制度づくりの例:
・子育て相談員を設置する
・産婦人科を増やす
・保育園を増やす
・ファミリー向け住宅を増やす
・公園を増やす・活性化させる

まとめ

日本創成生会議が2014年に発表した消滅可能性都市。多くの自治体において、根本的な改革のきっかけとして捉えられています(ご紹介した豊島区がよい例です)。ですので、「消滅可能性都市=住まない方がよい」ということにはなりません。

街選びをする際、その自治体が「どのようなビジョンを持っているのか」「どのような政策を検討しているのか」などについても考慮できるとよいですね。各自治体のホームページや広報誌などが参考になります。

■■補足資料:消滅可能性都市896自治体一覧

この記事を書いた人

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archiアーキ君