ご相談者:60代後半の男性
物件:郊外にある築70年程度の日本家屋(80坪の敷地に家が建っていて、建物の裏に100坪の畑付き)

畑がついている、売却困難な郊外の物件

2年ほど前のことですが、60代後半の男性が、親御さんから相続されたご実家を売却したいと相談にいらっしゃいました。ご本人は市内に住んでいらして、ご実家までは車で1時間以上かかるので、ふだんは管理もままならないとのこと。すでに相続してから3~4年経っていて、今後もそこに住む予定はないため、手放したいというご相談でした。

また、ご相談者には娘さんが2人いらっしゃるのですが、今回売却を希望されているご実家に訪れたのは幼い頃だけで、かすかに記憶がある程度。特に思い入れもないとのことで、ご自身が亡くなったときに、その家を子ども世代に遺したら迷惑だろうから、自分の代で相続したものは処分しておきたいというお話でした。

この、「相続した実家を売却したい」というのは、よくあるご相談のうちのひとつです。でも田舎の方にあって、大きな家であればあるほど、管理するのも売却するのも、難しいんですよね。

まずは現状確認のため、ご相談者といっしょに現地へ物件を見に行きました。80坪の敷地に家が建っていて、横に100坪ほどの畑がついている、築70年ほどの古民家風の家です。建物は少し傾いていたりと、このまま住むには修繕が必要だと思いました。

周辺は家がまばらで、お年寄りが多く、過疎化が進んでいそうな雰囲気です。裏の畑はご近所の方に使ってもらっていたのですが、そろそろ返したいと言われている状況でした。普通に売り出しても、新しい人が簡単に移り住んでくるような土地柄ではないと思われました。

さらにこの物件、売却に際して一番難しいのは、実は畑がついているところなんです。畑は農地法という法律で守られていて、農業をする権利のある人以外は買うことができません。ですから、相続する物件に畑がついていると、それを売るのは至難のワザということになります。

15~20年前までは、「畑仕事ができる」ということで購入する人もいたのですが、今は畑が付いていることを喜ぶ方はなかなかいないんですよね。畑を畑でなくしてしまえば売却も可能なのですが、その畑は家の裏にあって道路に面していないため、畑以外に変えることができないという、難しい状況でした。

どうしようかと思案していたときに、あるアイディアが頭に浮かびました。それは、市内から離れた、ちょっと入り組んだところにある立地を逆手にとって、隠れ家カフェとして、どなたかに使ってもらえないかというものです。最近は、人里離れたところにある隠れ家カフェがメディア等でもよく取り上げられたりと、話題になることも多いですよね。

もともと立派な家で、例えば2階の天井の一部は、大きな丸太柱の梁がついていたりと、いかにも古民家風な雰囲気。瓦屋根もなんとかそのまま使えそうな状態でした。家の横には、少し古びてはいるものの、何かと便利な農業用の倉庫も建っていました。さらにお向かいには空き地があって、カフェにしたときには駐車場として使えそうなところも魅力でした。

そういうお話をしましたら、ご相談者は「この家がカフェになったら、私たちもときどき行けていいなあ」と大変喜ばれ、500万円ぐらいで売ることになりました。

隠れ家カフェとして売るための秘策

ご依頼の物件を販売するにあたって、私はまず、その家の魅力的な部分、例えば太い梁や縁側など、趣の感じられる箇所を写真に撮りました。そして、「隠れ家カフェのような使い方はいかがですか?」というキャッチコピーと、さらにレイアウトをイメージしやすいような間取り図を添えて、インターネット上で情報発信をしたんです。

実は最初はまったく反響がありませんでした。でも3~4ヶ月経った頃、九州にお住まいだという、40代後半のご夫婦から問い合わせがありました。聞けば、九州で飲食店を経営されていて、今度岡山へ移り住む予定だから、物件を探していらっしゃるとのこと。

さっそく現地へとご案内したところ、「こんな隠れ家風のカフェにぴったりの物件をさがしていたんです」と、とても気に入っていただき、最終的にご購入いただくことができました。その後、リフォームを施して、今はカフェとして営業されています。私もお客さんとして、何度かお邪魔しているんですが、とても雰囲気が良いんですよ。

問題の畑に関しては、「無償でご利用ください」ということで、所有権移転をせずに、そのまま使ってもらうことになりました。農地の税金はとても安いので(100坪で年間800円程度)、売却せずに所有し続けるという選択もあるんです。

この記事を書いた人

archi
archiアーキ君