実家の空き家相続問題は誰にでも起こることです。実家の空き家を相続しても活用できないという場合、相続放棄をすれば問題はなくなるのでしょうか?
結論から言うと、相続放棄をしても管理責任が残ります。
例えば、台風で実家の空き家の屋根が飛んで、隣家の窓ガラスを割ったとします。
その場合の賠償責任が発生する可能性があるということです。
この記事では、実家の空き家相続でトラブルにならないために、下記のことをお伝えします。
・相続放棄した家の解体費用は誰が負担するのか?
・相続放棄した空き家の管理義務はいつまで続くのか?
・相続放棄した家が倒壊した場合どうなるのか?
・相続放棄後にしてはいけないこと
・相続放棄する前に考えること
気になるところからお読みください。
目次
相続放棄した家はどうなるのか?
まず「相続放棄」をした場合、その家はどうなるのでしょうか?
相続放棄した本人は何も相続できない
相続放棄とは「すべての財産の承継を拒否すること」です。そのため相続放棄をした本人は何も相続できません。
他の相続人が相続する
他の相続人が相続を承認すれば、その相続人が家を相続します。たとえば、親の相続であなたが相続放棄しても、あなたの兄弟姉妹が相続を承認すれば、その兄弟姉妹が家を相続します。
後順位の相続人に相続権が移る
同順位の相続人がいない場合でも、後順位の相続人がいれば、その相続人が家を相続します。相続人の順位は、子が第1順位、直系尊属(親や祖父母)が第2順位、兄弟姉妹が第3順位です(民法887条・889条1項)。先順位の相続人がいれば、後順位の相続人は相続人になりません。たとえば、親の相続で唯一の子である自分が相続放棄をしても、祖父母やおじ・おばがいれば、上記の相続人の順位に従って家を相続します。
全員が相続放棄したら?
相続人の全員が相続放棄をすると相続権は次順位者に移ります。更に次順位者も相続放棄をし、相続権が移る次順位者が存在しなくなった場合は相続人不存在となります。
相続人が不存在となった場合は相続財産は法人化し、相続財産管理人の選任がなされます(民法第951条、第952条)。
選任された相続財産管理人は相続財産の清算等を行い、残った相続財産を国庫に引き継ぎます。民法の規定する相続人がいない場合の流れは上記のようになります。
このように適切な手続きがなされた不動産は、最終的に国が管理していくことになります。
多くはそのまま放置されてしまう
しかし現実的には上記のようなケースはほぼありません。全員が相続放棄をして相続人不存在になった場合、相続財産管理人を選任するには家庭裁判所に選任の請求をしなければなりません。
ところが相続財産管理人の選任申立てには、20~100万円程度の予納金が必要です。相続放棄をした方々がその費用を出すとは考えにくいです。
結局のところ放置されることになります。
相続放棄した家の解体費用は誰が負担するのか?
【民法第940条】には下記のように書かれています。
“相続の放棄をした者は、その放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることができるまで、自己の財産におけるのと同一の注意をもって、その財産の管理を継続しなければならない”
電子政府の総合窓口 e-Gov
たとえば、あなたが相続を放棄しても、その次の順位にいる相続人(弟など)が空き家の管理を始めることができるまで、あなたは自分の財産と同じように注意を持って管理し続けなければならないということです。
つまり、相続放棄をしたからといって、空き家の管理をしなくてよいということではありません。あなたの次の順位にいる相続人が管理をしない限り、あなたの管理義務はなくならないのです。
しかし、そのためには相続放棄をしたことを、次順位の相続人に伝えなければなりません。
「知らせもせず、管理もしない」とどうなる?
相続放棄したことを次の相続人に知らせなかった場合、管理の義務は(民法上)、相続放棄をした人にあります。所有者ではありませんが、管理者としての義務を負っています。
ただし、民法では、空き家の管理については詳しく書かれていません。
それを補うのが空家等対策の推進に関する特別措置法(通称:空き家法/空家等対策特別措置法)です。
同法第3条では以下のように定めています。
“空家等の所有者又は管理者(以下「所有者等」という。)は、周辺の生活環境に悪影響を及ぼさないよう、空家等の適切な管理に努めるものとする”
電子政府の総合窓口e-Gov
空家等の所有者又は管理者と書かれています。相続放棄をしたので所有者ではありませんが、管理する義務があるため実質的な管理者と考えられます。
相続放棄した空き家の管理義務はいつまで続く?
空き相続放棄した空き家の管理義務は、空き家を「相続財産管理人」に引き渡すまで続きます。相続財産管理人とは、相続財産を適切に管理し、換価して債権者や受遺者に必要な支払いを行い、最終的に国に帰属させる人です。
全員が相続放棄した場合、当該空き家は、「相続人のあることが明らかでない」状態になるため、法人化し(民法第951条)、相続財産の管理人の選任が必要となります(民法第952条第1項)。「利害関係人」である債権者等が選任の申立てをしてくれればそれで良いですが、そうでない場合には、自ら家庭裁判所で相続財産管理人選任の申立てをする必要があります。
ただし、相続放棄をしたというだけでは、相続財産管理人選任の申立てができる「利害関係人」には該当しません。最後に相続放棄をした者が、相続財産の空き家が倒壊の危険があるなどの理由により自治体から管理を求められているなどの事情がある場合に、初めて利害関係人として相続財産管理人選任の申立てが認められます。選任の申し立ては、被相続人の最終の住所地を管轄する家庭裁判所にて行います。
相続財産管理人が選任されて空き家を始めとする相続財産の引き渡しが完了するまで、相続放棄した相続人は空き家の管理義務を負うことになります。
相続放棄した家が倒壊したらどうなる?
相続放棄をしても空き家の管理義務は残っています。もしその空き家が倒壊した場合、管理義務が残っていると近隣住民への賠償や撤去費用の請求をされる可能性があります。
近隣住民への賠償責任
家を放置していると劣化が進み倒壊などの事故が起こる可能性があります。
それだけでなく、放火されて第三者に損害を与えるリスクもあります。
もしも事故が起こってしまうと被害者から損害賠償請求を受けることを覚悟しなければなりません。
撤去費用の負担
誰も相続する人がいないと、相続放棄をしたとしても管理責任は残ります。
相続放棄した家を放置していると特定空き家に指定され、管理責任がある人が撤去費用などを負担させられることになります。
相続放棄後にしてはいけないこと
相続財産を処分しない
相続放棄の前に、相続財産を処分すると(使ってしまうと)相続放棄はできません。
具体的には、相続財産を売却したり、返済に使ったり、捨てたり、建物を取壊したり、故人が貸していたお金を請求する、といったケースが考えられます。
3ヶ月以上相続を放置しない
自分が相続人になったことを知ってから3か月放っておくと、相続放棄や限定承認はできません。
相続が発生したことを知ってから3ヵ月間を熟慮期間と言いますが、その間に決められない事情があれば家庭裁判所に申し立てて伸ばしてもらうこともできます。
相続財産を隠さない、使わない
相続人が相続放棄をすると、相続財産は他の相続人または次の順位の相続人のものになります。
例えば自分が管理していた預金通帳を意図的に隠したり、価値のある貴金属を持ち去ったりすると、相続の意思があるとみなされます。
つまり相続放棄をしていても認められなくなってしまいます。
相続財産の処分については、迷う場合は自分たちだけで判断せず、早い段階から専門家に相談することをおすすめします。
相続放棄する前に考えること
いったん相続放棄をしてしまうと、あとから撤回することはできません。そのため、相続放棄する前に、以下のようなことを検討しておくべきです。
- 家を残す必要はないのか
- 負債の状況
- 他の相続人の意向
- 家を売却、活用できる可能性
空き家のみを相続放棄することはできない
「空き家はいりません。他の財産は相続します」ということはできません。
相続放棄とは、空き家を含め遺産すべての相続の権利を放棄することです。
極端な話ですが、あとから「多額の隠し財産」が見つかったという場合でも、相続放棄を撤回することはできません。
相続放棄しても結局お金がかかる
いらない空き家は相続したくありません。「相続放棄しよう」と考えるのも自然です。相続放棄すると固定資産税の支払いをしなくてよいというメリットがありますが、空き家を管理するための費用が発生する場合もあります。
しかも、相続財産管理人を選任するときには、後に相続財産管理人の報酬に充てるために数十万円や百万円といった費用(予納金)が発生するケースが多数あります。相続放棄は慎重に検討しましょう。
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