日本国内における相続財産のうち、実に40%以上は「不動産」です。現金や預貯金を相続したときは比較的分かりやすいものの、不動産を相続するとなると、その後の活用方法に関して迷う方が少なくないのではないでしょうか。そこでここでは不動産を相続したケースにおける色々な選択肢についてお伝えしていきます。

相続する不動産には主に3種類あります

相続する不動産には主に3タイプあります。ここでは「相続前にどのように利用されていたか」によって分類しています。

1:実家……両親が暮らしていた家

2:不動産(活用していた)……収入がある建物(マンション、アパート、貸家など)

3:不動産(活用していなかった)……収入の発生していない土地(畑、空き地など)、不動産の本来の価値を活用していない低度利用の土地(青空駐車場)など

3のことを「遊休不動産」とも呼びます。また、農家がきちんと扱っている農地などは「2」に分類されます。

それでは各タイプの不動産を相続したときの対応に関してお伝えしていきます。

実家を相続した場合

相続した実家に住むのであれば話は比較的単純です。
そして住まないのであれば空き家になりますが、活用する方法はいくつかあります。

1:休日の趣味のための空間として使ったり、セカンドハウスにしたりする

2:収入源にする

・建て替えずに使う
「適切にリフォームをするものの、建て替えは不要」というパターンです。資金は比較的少なくて済みます。貸家にするだけでなく、シェアスペースや民泊にするなどの選択肢もあります。

・建て替えて使う
建物の経年劣化などが進行しているのであれば、アパートなどに建て替えるのもいいでしょう。新築ですから「その土地に合った設計」をしやすく、利益を出しやすくなります。
ただ、建築費は高くなりますし、入居者を確保できないのであれば赤字になるでしょう。また、赤字ではないとしても賃料を下げなければならなくなり厳しい状況になっていく可能性もあります。
そのため立地に問題がないかどうかなどの綿密な調査をしたり、プランを練ったりする必要があります。

・解体して更地にして使う
実家を解体して、更地にして使うという選択肢もあります。活用方法としては月極駐車場などがメジャーですが、好立地であればコインパーキングにするのもいいでしょう。

3:売る

もちろん売って現金を手にすることもできます。「住みたい人も、そのまま活用したい人もいない」という場合は検討しましょう。
住宅の値段は基本的に下がっていくものですから、早めに売却することをおすすめします。「活用せずに長期的に持ち続ける」のはもったいないと言えます。

ちなみに空き地に関しては、
・「相続日から3年間が過ぎる日」のある12月31日まで(ただし2023年度まで)に売ると、譲渡益(売ったことによる利益)から最大3000万円を差し引くことが可能
という税制上の優遇措置があります。

ただし以下の条件をクリアしている場合にのみ適用されます。
・耐震性に関する条件を満たしている(建物付きで売る場合)
・相続前に「相続者以外の人」が暮らしていなかった
・1981年5月31日までに建築されている など

これらを満たしているのであれば、売却に向けて早めに動き出すことをおすすめします。

4:ひとまず空き地のままにしておく

ここまでお伝えした通り、賃貸として活用する、売却するなどの選択肢があるものの即決断するのは困難でしょう。そのため、「ひとまず空き家として保有しておく」という方も珍しくありません。
ただ、たとえ空き家であっても税金(固定資産税など)はかかります。また、放置しておくと物理的に傷んでいきますから維持費も発生します。そのため維持管理を行いつつ、「持っておくための費用」をできるだけ落とすような工夫をすることが大事です。

そして近年では、「空き家管理サービス業者」が増加しました。
1000円~1万円で管理委託できる場合が70%ほどとなっていますから(国交省のデータより)、ハードルは意外と低いです。特に「今住んでいる家と、空き家のある場所が離れている」という方は、このサービスを活用してみてはいかがでしょうか。

いずれにせよ「今後この空き地をどうするか」ということはできるだけ早めに決めることを推奨します。「ずっと持ち続けて劣化(状態的な意味でも、価値的な意味でも)させていく」のは好ましくありません。

活用中の不動産を相続した場合は?

活用中の不動産を相続したのであれば、親の賃貸経営(など)を受け継ぐことになります。
ただ、もちろん経営が上手くいっていない可能性もあります。
賃料の支払いが遅れているかもしれませんし、建築から半世紀以上経過してほぼ誰も入居していないというパターンも珍しくありません。

まずは不動産の状況をチェックしましょう。
ここで確認するべきなのは、

・築年数
・入居率
・管理状況
・修繕すべきかどうか
・滞納などの問題が起きているか
・収支
・借入金の状況

などです。

改善すべき点があったのであればメスを入れましょう。基本的には弁護士や不動産業者などのプロフェッショナルを頼りつつ進めていくことになります。そしてそれよりも重要なのは、「親と共に問題の確認・解決をして、早めに引き継ぎ体制を万全にしてから相続すること」です。できる限り、相続してから慌てることのないようにしましょう。

活用していない不動産(遊休不動産)を相続した場合は?

遊休不動産を相続した場合も対応に困りやすいです。たとえ活用していない建物であっても固定資産税などが発生しますし、数年経過すればトータルの負担が100万円を超えてもおかしくありません。

有効な方法としては「土地に利益を出させて、土地にかかる費用を賄う」というものがあります。
そしてこのケースでは、どの土地を自分で使って、どの土地に利益を出させて、どの土地を売るかなどを検討しなければなりません。

1:自己利用(自分で使う)について

自分や家族が趣味のスペースなどとして使うということです。ただ、基本的に利益が発生しませんから、保有コスト(固定資産税など)による負担がかかり続けることになります。

もちろん「自分達で活用し続けることの価値>保有コスト」になるのであれば問題はありませんが、遊休不動産がたくさんあるのであればそれも難しくなるでしょう。

コストをカバーする方法(別の収入で賄うなど)がある場合は持ち続けることも可能ですが、そうでないのであれば「売却」や「今後の活用方法」などについて早めに検討し始めることをおすすめします。

2:不動産運用をする

不動産を活用することにより、利益を出すこともできます。具体的には「全収入(家賃など)>全支出(税金や管理費など)」となればプラスになります。

これを「不動産運用」もしくは「不動産の有効活用」などと呼びます。

不動産運用をするにあたっては、「どんな建物を建てて、どのようなプランで賃貸経営をするか」などを決める必要があります。

【建物の候補】

・住宅系賃貸(マンション、アパート、一戸建貸家など)
・住宅系ではない賃貸(貸オフィス、貸店舗など)
・高齢者向け賃貸住宅(高齢者向けマンション、サービスつきシニア向け住宅など)
・介護系施設(グループホーム、老人ホームなど)
・小規模認可保育所
・宿泊施設(ホテル、民泊、簡易宿泊所など)
・シェアリング系賃貸(シェアオフィス、シェアスペースなど)
・駐車場(機械式駐車場、コインパーキングなど。※建物ではありませんが有効な選択肢の一つです)

不動産運用で成功すればかなりの利益を出せるかもしれません。

しかしリスクも色々とあります。特に賃料や入居率が下がれば経営に大きな打撃を与えることになります。

そのため立地条件や物理的環境などを適切に把握しつつ、市場の需要を細かく調査し、資金計画などと合わせて、活用方法を選択することが大事です。

【不動産運用の手法】

相続した不動産に一番適する運用方法を選びましょう。

○事業受託方式

土地オーナーが建物を建てるものの、事業そのものは不動産業者や建築業者がほぼ全て行います。具体的には、調査、各種計画、設計、建築、借入のあっせん、建物の運営管理などをトータルで任せることになります。

その手軽さからか、今ではこの事業受託方式が主流となっています。

ちなみに「事業を受託する不動産業者や建築業者」のことをデベロッパーと言います。

土地所有者に賃貸経営の知識がなくてもスタートできますが、「デベロッパーへの報酬分」は利益が減ります。

○建設協力金方式

事業受託方式のうち、「事前にテナント(入居する事務所や店舗のこと)が決定していて、そのテナントが『建設協力金』として貸付をしてくれる形式」のことを建設協力金方式と呼びます。

土地所有者は建設協力金を使うことができますから、「金融機関などから、利息が発生する融資を受けなくてよくなる」というメリットが発生します。

建設協力金は「月々の家賃との相殺」という形で返済され、差額が土地所有者に支払われます。また、契約期間中にテナントが退去したとしても、「まだ返済できていない建設協力金」を返す必要はありません。

テナントとしてはファミレスやコンビニなどが多く、基本的に長期契約となりますから経営が安定しやすいです。ただ、そもそも「テナントが集客しやすい立地(大通りにあるなど)」でなければ厳しいと言えます。

○土地信託方式

信託:自身の財産を託して、運用や管理を代行してもらうこと

もちろん託す相手は「信頼性の高い人(企業)」でなければなりません。

土地信託方式は、

土地所有者:「信託財産」として土地を信託銀行に託す

信託銀行:資金繰りをして「投資用建物」を建てる。テナントや入居者が支払う賃料から信託報酬をもらいつつ、土地所有者(もしくは土地所有者が指定する人。子など)に配当を出す

というやり方です。

投資用建物としてはオフィスビル、商業ビル、マンションなどがあります。また、土地信託方式を採用する場合には、好立地であること(十分に広い、家賃が高い地域であるなど)が求められます。

また、以下の用語を覚えておきましょう。

委託者:土地を託す人(土地所有者)

受託者:信託銀行

受益者:配当をもらう人

○等価交換方式

「『土地所有者が土地を出資し、デベロッパーが資金を出して建物(マンションなど)を建てるケース』において、土地と建物の金額の比率によって、双方が土地建物を共有する方式」のことを等価交換方式と呼びます。ちなみに、建物や土地の所有権の比率を指して「持ち分」と言います。

土地所有者は土地の出資をすれば、資金を出す必要はありません。また、取得したマンションなどの持ち分を賃貸利用したり売却したりすることで、利益を出すことが可能です。

デベロッパーは入手した建物の持ち分を分譲して収益を狙いますから、好条件の立地である必要があります(分譲マンションの需要が大きい地域であるなど)。

また、土地の一部はデベロッパーのものになりますから、土地を継続的に所有したい方にはおすすめしません。

○定期借地権方式

借地権:建物を持つために土地を借りる権利

借地契約の構造は以下の通りです。

地主(土地所有者):土地を貸す

借地人(土地を借りた人):建物を建てる。地主に賃料(地代)を払う

そして「定期借地権=期間が決まっている借地権」と表現できます。

旧借地法においては、契約期間が満了を迎えても、「法定更新」がなされていました。つまり契約期間が終わっても、法律に沿って自動的に更新されていたということです。

そのため借地人の権利が非常に強く、「土地を貸すなら、戻ってこないつもりで貸すべき」とさえ言われていました。実際、土地を貸す土地所有者はほぼいませんでした。

ですが定期借地権が1992年に施行されてからは、契約期間が満了になっても自動更新はされなくなりました。つまり土地が絶対に土地所有者に戻ってくるということです。公平性が出たことにより、定期借地権がだんだんと広がっていきました。

また、定期借地権には以下の3タイプがあります。

  • 一般定期借地権:契約期間50年以上
  • 事業用定期借地権:契約期間10年以上~50年未満
  • 建物譲渡特約付借地権:契約期間30年以上

種類によって、契約方法、建物の使い道、満了時の措置などが違います。

いずれにしても長期間貸すことになりますから、「土地が戻ってくるまで、売ったり使用したりしない」と確信できない限りは、定期借地権方式を選ぶことはおすすめしません。

また、地代はそれほど高くなりませんから、収益も少なくなる傾向にあります。

ですが、「土地所有者は資金をほぼ出さなくて良い」というメリットがあります。

○自己建設方式

各種計画、建築に関する手配、運営などのあらゆることを土地オーナー(土地所有者)が実行する形式です。戦前~昭和40年代くらいまではこの手法が主流でしたが、今ではほぼ選択されていません。

全部直接自分で進めるため上手くいったときの利益は大きくなります。ですが失敗したときのリスクを全部自分で負うことになりますし、時間とノウハウも必要と言えます。

3:売る

日本の人口は減少傾向にありますから、不動産を持ち続けていても値下がりする場合が多いです。また、保有コストも無視できません。

ですから相続した不動産を自分で使ったり運用したりしないのであれば、早めに売ることをおすすめします。

まとめ

相続する不動産のタイプには色々あります。また同じ種類の不動産であっても状況によって適する使い方は異なります。

自分や家族にとってベストな選択をするためにも、信頼性の高いFP、不動産業者、弁護士、税理士などと相談することを推奨します。そして資産の保護と資産形成を進めていきましょう。