家族信託の流れは大まかに次のようになります。

家族信託を利用する場合は、まずプランニングのためのデータを収集する必要があります。家族信託の必要性を判断する重要な段階なので、以下に挙げる6つの内容をすべて収集するようにしてください。

プランニング

家族信託の目的を明確に

家族信託の目的、委託者が信託したいもの、家族信託の利用方法について具体的に明確にしましょう。アパート経営を例にすると、下記のような情報を整理しておきましょう。

・父親が築40年の賃貸アパートを所有している。
・高齢の父親の判断力が低下している(日常生活や法律行為は問題ない)。
・父親は、このアパートの管理を長男に任せたいと考えている。
・父親には、長男、次男、長男の孫の3人の息子がいる。

父親が認知症になると、賃貸借契約や修繕のための業者との契約ができなくなるため、アパートの管理運営が滞ってしまいます。

このような場合、後見制度を利用することもできますが、後見制度は被後見人の財産を守ることが本来の役割であり、被後見人に代わって賃貸管理をするものではありません。

この場合、家族信託の目的は、「父親が、いつか長男に賃貸住宅の運営を引き継いでほしい」と考えていることになります。

受益者と受託者を決定

信託の目的が明確になったら、受託者と受益者を選択する必要があります。受託者は、父親が不動産の管理・運営を委託する人物であるため、父親の意向に沿って長男を受託者に任命することが適切です。次に、財産の利益を受ける者、つまり受益者を決めます。ほとんどの場合、財産の所有者が受益者として選択されます。

家族信託はかなり柔軟な仕組みになっているため、第二信託管理人と第二受益者を契約に盛り込むこともできます。長男が先に亡くなった場合、次男を第二信託管理人に指定し、孫を第二受益者に指定することもできます。このように、信託の設計を家族と話し合い、データを集め、徐々に仕上げていくことができます。

信託財産の特定

信託財産を特定して契約書を作成するため、家族信託の受託者には、信託財産以外の財産を管理する権限はありません。

この場合、信託は賃貸アパートの監督、運営、処分に責任を持ちます。しかし、父親が亡くなった場合、家やその他の資産は遺言で残すか、慣習に従って分配する必要があります。成年後見制度では全財産が保護されるのに対し、家族信託では保護が限定されるだけなので、受託者や他の家族は両者の区別に注意する必要があります。

信託の期間と制限を決定

家族信託の場合、期間を自由に設定できるため、以下のように期間を決定します。

・受益者が死亡するまで
・第二受益者及び受益者の死亡まで
・受託者が亡くなるまで
・信託開始(契約の効力発生日)からXX年後
・受益者がXX歳になる日まで

信託とは、一族の財産を直系卑属に移転する目的で、受益者を子から孫へと「連続した受益者を信託する」ものです。信託の受益権の承継回数に制限はありませんが、30年を経過した後は1回しか承継できないので注意が必要です。

信託監督人の選任

家族信託では、必要に応じて信託監督人を選任することができます。通常は受益者が信託監督人を監督しますが、何らかの事情で受益者が監督できない場合は、第三者を信託監督人に指定することができます。成年後見制度でいえば、後見監督人の仕事に相当します。

信託満了後の財産の所有者を決定

家族信託が失効する前に、信託財産と信託財産以外の財産の所有者を決定しておく必要があります。相続の問題を回避するためには、家族信託がリセットされたことを前提に、家族間で対応するのがベストです。家族信託は長く続けるものなので、これだけの情報を考慮して設計する必要があります。

家族信託のプランニングが終わった後は、次の段階として信託を開始するための準備を全て整える必要があります。信託契約の作成・締結と管理権限の移譲が主なステップとなりますが、この2つについては、流れを説明していきます。

信託契約書の作成と締結

家族信託は口頭でも成立しますが、誤解によるトラブルを防ぐために、信託契約は必ず書面で行います。家族信託を行うには、信託口座の開設も必要ですが、金融機関の大半は公正証書以外の書類は受け付けてくれません。公正証書は公証人が作成する必要があり、公証人は信託財産の価額に応じた手数料を徴収します。費用を抑えたい場合は、公正証書以外の契約も認められるかどうか、金融機関に問い合わせてみるとよいでしょう。信託契約書には、以下の内容を記載します。

・信託の目的
・信託財産
・受益者、委託者、受託者
・信託の期間
・信託財産の管理及びその売却
・信託終了に関する重要事項
・売買が成立した日
・住所、委託者及び受託者の署名・捺印の有無

信託財産の登記

家族信託は、賃貸経営を例にとると、受託者にマンションなどの所有権を与えるものです。所有権には管理権と受益権がありますが、家族信託では管理権のみが移転するため、委託者と受託者が共同で申請する必要があります。登記申請をすると、登記事項証明書に信託目録と受託者の名前が追加されます。登記申請の際には、以下の書類が必要です。

・登記識別情報または登記事項証明書(権利証)
・固定資産税評価証明書
・戸籍謄本または抄本
・委託者の実印、受託者の認印
・委託者の印鑑証明書(発行後3ヶ月以内のもの)
・委託者及び受託者の身分証明書(運転免許証等)
・委託者の在留許可証

信託口口座(しんたくぐちこうざ)の開設

家族信託の受託者は、信託財産を特定の口座で管理するために、銀行に信託口口座(しんたくぐちこうざ)を開設します。信託口口座の開設が可能かどうかは、まず銀行や証券会社に問い合わせてください。

信託口口座は通帳のみで、入出金はすべて本人が行うものがほとんどです。信託口口座を開設するためには、以下の書類を提出する必要があります。

・家族信託契約書
・信託証書
・受託者の本人確認書類

口座開設が無事完了すると、家族信託を開始することができます。

以上、家族信託の流れを大まかに解説しました。