受諾者とは
家族信託の受託者は、委託者から託された財産の管理・運用・処分を行う人のことを言います。
受諾者の役割
受託者は、信託された資産を監督し、売却する役割を負います。
管理とは、例えば、マンションを人に貸したり、大きな修繕を行ったりすることです。
処分とは、マンションを売却してしまったり、借金をして抵当権を設定する行為です。
受諾者になれる人・なれない人
受諾者になれる人
家族信託(民事信託)では、受託者は基本的に家族・親族です。受託者は、重要な財産の管理・運用・処分に責任を持つため、金銭にだらしない家族や、委託者の意に反する行為をするような人ではなく、委託者が信頼する人に受託者を依頼することが望まれます。
信託の資産をきちんと扱うことができる信頼と能力を持ち、その内容について知識があり、それに従って行動できる、資格のある受託者であれば、委託者の希望にも沿うことができるでしょう。受託者は、家族の一員や親しい友人であることが理想的です。
しかし、家族にも親族にもそのような人がいない場合や、財産を正しく運用できるかどうか不安な場合には、受託者とは別に信託監督人(受託者を監督する人)を選任したり、司法書士などの専門家に相談したりすることも可能です。
家族信託では、受託者の選定が非常に重要で、親族であれば誰でも務まるというわけではありません。
受託者になれない人
未成年者、成年被後見人、被保佐人は、たとえ親族であっても受託者になることはできません。これは、判断能力や意思決定を行う必要があるからです。
受諾者の権限
受託者は、信託財産の管理・処分など、信託の目的を達成するために必要な行為を行うための幅広い権限を持っています(信託法第26条)。
金銭的利益を得るための賃貸不動産の使用や管理、不動産の売却などが具体例として挙げられます。
また、建物の開発、土地の購入、銀行からの借り入れなども可能です。
ただし、行わなければならないことは、「信託の目的を達成するために不可欠なこと」です。
さらに、信託契約には、受託者の権限を制限する条項を盛り込むこともできます。
受諾者の義務
受託者は多くの権限を与えられていますが、同時に多くの義務も負っています。
それらは、次のようなものです。
①信託事務遂行義務
受託者は、信託契約の定めを形式的に遵守するだけでなく、信託の目的を達成するために、その規定の背後にある委託者の意思に沿って信託事務を管理しなければなりません(信託法第29条)。
ここでいう「信託事務」とは、信託財産の管理・分配など、信託の趣旨を実現するために必要な行為を指します。
②善管注意義務
受託者は、信託事務を善良な管理者と同等の注意をもって管理する責任を負います(信託法第29条)。
「善良なる管理者の義務」とは、その職業、専門性の程度、社会的地位などから、業務を委託された者に期待される注意義務の水準を指します。
言い換えれば、他人の財産を管理・処分するときは、自分の財産を管理・処分するときよりも、より慎重でなければならない、ということです。
③忠実義務
受託者は、信託契約に記載された信託の目的に従い、適用されるすべての法令を遵守して、受益者のために信託業務を忠実に管理する責任を負います(信託法第30条)。
受託者は受益者に忠実でなければならないので、受益者の利益に反する行為や害を及ぼす行為ができないことは言うまでもありません。
④公平義務
受託者は、受益者が2人以上あるときは、すべての受益者の利益のために、公平にその職責を遂行しなければなりません(信託法第33条)。
⑤分別管理義務
受託者は、信託財産を自己の財産や他の信託財産と区別して、特定の方法で管理することが求められています(信託法第34条)。
当初は受託者のものであった財産は、”受託者の固有財産 “と呼ばれます。
受託者は、信託財産、委託者固有の財産、受託者から委託されたその他の財産を、混同しないように区別して管理・保管することを職務とします。
例えば、不動産に関わるものであれば信託の登記がされます。
金融資産については信託口口座を作り、そこに預かった金銭を入れて管理します。
その他、信託財産に係る帳簿を作成するなどの方法もあります。
また、登記をしなければ第三者に信託財産であることを証明できない場合には、登記・登録をしなければなりません。
つまり、誰が見ても信託財産であることがわかるように管理することが必要です。
⑥信託事務処理者の監督義務
受託者は、限られた場合を除き、信託事務を委託された第三者に対し、信託の目的を達成するために必要かつ適切な指導をしなければなりません(信託法35条)。
自分の代わりに信託の管理を誰かに依頼したことがある場合、受託者は、その人が正しく信託の管理をしているかどうかをチェックしなければなりません。
⑦信託事務の処理の状況についての報告義務
委託者や受益者から請求があった場合、受託者は信託問題の処理状況などについて情報を提供しなければなりません(信託法第36条)。
⑧帳簿等の作成等、報告及び保存の義務
受託者は、信託財産に関する帳簿等の作成・保存の義務を負います(信託法第37条)。
具体的には、年1回一定の時期に、貸借対照表、損益計算書等の書類を作成しなければなりません。
作成した帳簿やその他の書類については、受益者に通知しなければなりません。
これらの記録は10年間保存されなければなりません。
受益者はいつでも要求があれば書類を見せなければなりません。
受諾者の責任
受託者の責任について説明します。
受託者は、その職務を怠った場合等には、まず損失を補填し、信託財産を原状に回復しなければなりません(信託法第40条)。
受託者は、例えば、信託財産の登記を怠るなど、信託財産を適切に分別管理しなかった場合、損失を補填したり、信託財産を原状に回復する責任を負います。
また、信託財産から充足されるべき債務についても、基本的に受託者の個人財産が責任財産となり、受託者はその義務も負うことになります(無限責任)。
つまり、受託者は、信託財産から充足できない場合には、自己の財産から未払い債務を支払う責任を負います。
受諾者の報酬
受託者は、財産の管理・処分・引渡しなどの信託事務を処理することの対価として、信託財産から「受託者報酬」を受け取ることができます(信託法54条1項)。ただし、信託証書(信託契約等)に信託報酬に関する条項を設けることが要件となっており、そうしないと受託者は無報酬で信託事務を行うことになります。
信託報酬の定め方
信託法第54条によると、「家族信託の受託者は、信託事務を管理することの対価として、”信託報酬 “を受けることができる」とされています。
「受託者は、(中略)信託行為に受託者が信託財産から信託報酬(信託事務の処理の対価として受託者の受ける財産上の利益をいう。以下同じ。)を受ける旨の定めがある場合に限り、信託財産から信託報酬を受けることができる。」
ただし、信託報酬の定めについては、「受託者が信託報酬を受ける旨の定め」を信託契約書に記載する必要があります。
例えば、受託者に信託報酬を月単位で支払う場合には、以下のような条項を信託契約書に記載する必要があります。
“信託報酬は、信託財産から受託者に直接支払われるものとする。”
また、収益不動産等を信託する場合、金額が確定していないときは、次のように定めることが必要です。
“信託財産の月々の収入の〇%を手数料として支払う。
どのような場合でも、信託報酬が支払われる際に、受託者は信託財産から直接徴収しなければなりません。
いずれの状況においても、信託報酬を支払う場合には、信託契約に報酬を支払うことを明記することが必要です。
信託報酬額を決める際の目安と注意点
信託報酬はどのような基準で決定されるかについて説明します。
報酬額については、信託法上、上限・下限が定められていないため、当事者間で決定することができます。
ここで忘れてはならないのは、信託の事務との関係で報酬額を高く設定しすぎると、報酬の名を借りた「贈与」と解釈される可能性があることです。
一般的に報酬の目安として考えられているのが、家庭裁判所が定める成年後見人の報酬額である「月額2万円~6万円程度」という額です。
これは、信託財産を管理する受託者の責務が成年後見人と同等であることが理由です。
反対に、「月額として信託財産から生じる収益の〇%」など、定率で報酬を決める場合は、「収入の5~10%」、つまり、不動産管理会社に管理を依頼した場合の管理費に設定されるのが一般的です。
《受託者報酬の例》
給与は月2万円から6万円程度。
定額報酬の場合:信託財産からの収入の概ね5~10%に相当する月額報酬。
前述の範囲はあくまで目安であり、その範囲内に収まる必要はありません。ただし、贈与とみなされることのないよう、金額の設定には注意が必要です。
受諾者になる前に知っておくべき注意点
受諾者が複数の場合の注意点
①迅速な判断がなされない
信託問題の管理は、「受託者の半数以上」の判断で行われることとされています。
信託契約において、受託者の意思決定や責任分担を明確に定めても、複数の受託者の間で意見が分かれ、信託が意図したとおりに実行されないことがあります。
②受託者は、信託内で決定された責任について、連帯して責任を負う
信託の事務を管理する際に、各受託者は第三者に対して義務を負い、これが連帯債務となります。
このようなことは頻繁に起こることではありませんが、信託を通じて得た融資の担保として不動産が差し入れられる場合など、状況によっては起こります。
信託上の業務であるため、本当は自分が個人で借りた債務ではありません。しかし、信託業務の担当の1人であるため、その債務を共同で追うことになります。
債権者から支払督促があった場合、受託者として連帯して債務を負担することになります。
そのため、受託者が複数いる場合は、受託者間のコミュニケーションと協力が不可欠となります。また、受託者としての責任感とその重要性を理解した上で、資産運用の判断に臨むことが肝要です。
受諾者が違反行為をしたら
家族信託では、次の4つが禁止されています。
信託財産を、受託者の財産とすること
利益相反が起こった場合、一般的には、以下のようになります。
(受益者が追認すると遡って有効になる)
(受益者が追認すると遡って有効になる)
受託者が代理人となっている第三者が、利益相反行為であることについて
・知っている=第三者との取引を取消しできる
・知らないが、重過失がある=第三者との取引を取消しできる
・上の2つ以外=受託者に損失を補てんするよう請求できる
受託者が代理人となっている第三者が、利益相反行為であることについて
・知っている=第三者との取引を取消しできる
・知らないが、重過失がある=第三者との取引を取消しできる
・上の2つ以外=受託者に損失を補てんするよう請求できる
受諾者が死亡したらどうなる?
家族信託は、信託法の規定に従って、元の受託者が亡くなると、新しい受託者に引き継がれます。
引継ぎの手順
①受託者の義務は終了する
家族信託における受託者の責務は、受託者の死亡により終了します(信託法第56条第1項第1号)。
受託者が死亡すれば、その責任を果たすことができなくなるため、受託者としての義務の終了は必然的なものです。
②受益者への開示と信託財産の管理
受託者の相続人、成年後見人又は保佐人は、受託者の死亡により受託者の任務が終了したときは、判明している受益者に対し、速やかに書面で通知しなければなりません(信託法第60条第1項本文)。
受託者の相続人・成年後見人・保佐人は、受託者のもっとも身近な存在です。
家族信託を維持するためには、委託者が亡くなった場合、できるだけ早く受益者に通知することが重要です。
そのためには、受託者の相続人、成年後見人、保佐人のすべてに、受託者の死亡を通知する必要があります。
この届出義務に違反した場合には、「100万円以下の過料」が科される可能性があります(信託法270条1項1号)。
ただし、信託契約において具体的な文言を定めることにより、特定の者に対する通知義務を免除したり、通知者を変更することができます(信託法第60条第1項但書)。
また、後述の新しい受託者、信託財産管理人等が信託事務を処理できるようになるまでは、受託者の相続人、成年後見人、保佐人が信託財産を預かり、信託事務を引き継ぐために必要な行為をしなければなりません(同条2項)。
これらの者は、正式には家族信託の受託者になるわけではありませんが、信託財産を保護するために一時的に信託財産を保管する義務を負います。
③信託財産管理人の信託財産の管理について
委託者の相続人、成年後見人、保佐人が信託財産を適切に管理していれば、特に問題はないでしょう。
しかし、特定の状況下では、これらの個人が信託財産を保持することは困難となります。
例えば、以下のような状況では、信託財産の維持が不適切になる可能性が高いです。
・受託者の相続人が子供だけである場合
・受託者の相続人が全員多忙で、信託財産の管理に必要な時間や労力を割くことができない場合
・受託者の相続人(例えば、海外在住者)が信託財産から遠距離に住んでいる場合
このような場合には、利害関係人の申立てにより、裁判所が信託財産管理者による管理を命ずる処分を行うことが認められています(信託法63条1項)。
この場合、裁判所は信託財産管理人を選任し(信託法第64条第1項)、その後、信託財産管理人は受託者の職務を単独で行うことができるようになります(信託法第66条第1項)。
信託財産管理人は、暫定的に、生存する受託者と新たに選任された受託者の「仲立ち」をする役割を担っています。
信託財産管理人は、信託財産をよりよく管理するため、保存、一部使用、改良の行為を行う権限を与えられています(第66条第4項)。
④新しい受託者の選定について
家族信託の前の受託者が死亡した後、新しい受託者を選任するためには、以下の手順を踏まなければなりません。
(1)信託契約の指針に従った選任
新たな受託者の選任については、信託契約の定めに従うものとします(信託法第 62 条第 1 項)。
受託者が亡くなった場合、後任の受託者の選任条件を信託契約書に定めることができます。
例えば、「受託者が亡くなった場合、Aを新たな受託者とする」というように、あらかじめ特定の人物を後任の受託者として指定しておくことが賢明です。
別の方法として、「受託者が亡くなった場合、BとCが相談して後任の受託者を決める」というように、後任の受託者を指名する権限を持つ人物を指名しておくこともできます。
新しい受託者は、信託の引き受け(受託者の役割の引き受け)を辞退することができることに留意してください。
本人が辞退した場合や、受任確認の求めに応じない場合は、別の手続きで新たな受託者を選任する必要があります。
受託者が就任を辞退した場合は、次のような宣言をする必要があります。「受託者が死亡した場合、後継受託者はDとする。もしDに就任を断られた場合、後継受託者はEとする。」また、予備として新しい受託者の候補を挙げておくことも有効です。
(2)任命に関する受託者と受益者の合意
信託契約に後任の受託者の指名方法について指示がない場合や、その任に就いた者が信託契約の定めに従って辞退した場合、委託者と受益者の合意によって新しい受託者を選びます(信託法第62条第1項)。
信託の最大の利害関係者は受益者であり、委託者は信託の「仕掛け人」であることから、両者の同意のもとに新たな受託者を指名することは理にかなっています。
このようなケースでも、選ばれた新しい受託者は、その任命を辞退することが可能でです。
候補者が辞退した場合は、別の候補者を選ぶことになります。
(3)委託者と受益者が合意に至らない場合、裁判所に選任を申し立てる
裁判所は、委託者と受益者の間で選任の合意が得られない場合など、必要と判断される場合には、利害関係人の申立てにより、新たな受託者を選任することができます(信託法第62条第4項)。
委託者と受益者の間で意見が一致しない場合、双方の主張する受託者としての適性(能力、時間的余裕、居住地等)を十分に分析した上で、より適任と思われる候補者を選定します。
(4)委託者がいない場合は受益者が選任する
委託者が既に亡くなっているなど、存在しない状況下では、受益者が自ら新たな受託者を指定することが認められています(信託法第62条第8項)。
ただし、「委託者または受益者が委託者の死亡を知らない」、「委託者または受益者が委託者の死亡を知らない」など、何らかの理由で委託者が長期間不在となり、前述の手続きにより後任の委託者を選任しようとすると「有力な候補者がいない」場合が稀にあります。
もし受託者が欠けた後、新受託者が就任しない状態が1年間継続すると、その時点で家族信託は終了してしまいます(信託法163条3号)。
これは、受託者がいない場合、受託者が「受益者のために財産を管理・処分する」という信託の基本的な目的が損なわれ、信託の継続が無意味になるためです。
家族信託を解消したくない場合は、すぐに受託者と受益者の面談を済ませるか、裁判所に申請して新たな受託者を選任してもらいましょう。
以上、家族信託における受益者について解説しました。
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